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2年目の“トモダチ作戦with Music” ~コーディネートにあたって~

相愛大学音楽学部 音楽マネジメント学科 准教授
砂田和道

 大震災から2年目の3月11日の翌日、宮古市の学童クラブから、可愛らしいアクセサリーが10個、茶封筒で送られてきた。 一つ一つが包装され、メッセージも添えられていた。もちろん、封を開ける前からそれが何を意味するのか、感じる取ることはできた。それに子ども達が先生と一緒に、カーペットの上にちょこんと座りながらアクセサリーを作り、そして長机でメッセージを書いている姿が目に浮かんでくる。「ああ、また様子を見に行かなければ」と日頃から燻っている、なんとも言えない焦りと気がかりが、いつものように私の奥底から沸々と湧き出てきた。
 2年目のトモダチ作戦 with Musicは昨年11月と本年3月に行われた。11月は三陸の大槌、山田、宮古。3月は福島のいわき市である。つまり1年目に訪ねた地を、再び訪れることにしたのだ。まるで七夕のような状況。これで良いのだろうかと自問自答を繰り返し、常に自身や制度、そして脆弱なアートNPOの状況に、忸怩たる念を抱く1年間であった。1年前、本誌に寄稿した拙稿では、改善、確立しなければならないポイントを、明確に記している。それなのに当方の活動は、現地に拠点を張らず、東京やアメリカからの人材を訪問させているに過ぎない。本当は東北の人材で完結できるのが望ましいのであろうに、これでは有効な財源活用とは言えないと強く感じる。そんな2年目で気がついたことを、トモダチ作戦with Musicでのこと、そして文化芸術の領域における、アーティストとマネジメントに関する特徴的な傾向を、一般論としてここに記してみたいと思う。


■トモダチ作戦
 トモダチ作戦with Musicを始めた経緯は、アメリカ大使館との話しの中で、文化版による支援活動の必要性を協議したからである。なぜなら、NPOくらしに音楽プロジェクトは、2007年より大使館の助成で“Arts in Education”と、その担い手である“Teaching Artist”の概念と手法を、国内に紹介しているからだ。その内容は「音楽ワークショップで子どもの思考力、創造力、そして多様な価値観を引き出す方法論」と、「音楽家にその理念と手法を移植すること」であった。だから、トモダチ作戦文化版の起案において、その活動目標は「子ども達の日常的教育環境を取り戻すため、音楽による教育支援を日米官民の協働で行い、子ども達に目標を与え、創意工夫ある人材育成に寄与すること」としていた。
 1年目の活動では、支援活動特有の感じとは違い、音楽家達が普段と変わりない雰囲気で、ワークショップを子どもや地域の方に行った。それが却って良かったらしい。そして訪問先の子ども達は、日米の音楽家、あるいはアメリカの子ども達と絵や手紙でのコミュニケーションへと、発展し継続している。だから2年目の活動では、子ども達は再会を待っていたし、そして、地域の方のさらなる参加へと繋がった。大槌町の幼稚園では夕刻、地域の方や中高生を招き、公開リハーサルを行った。その狙いはリハーサルを通じて、表現創造をする音楽家の共同作業、意見交換を垣間見て頂くこと、そして可能なら参加者とディスカッションをしたいと考えていたのだ。企画段階では、参加者からの意見は少ないだろうとのことであった。ところがその夜、予想を翻し地域の方から、どんどん意見、注文が続き、地域の方たちの「内なるエネルギー」を感じる熱を帯びた一夜となった。そうして、参加した方たちの考えを反映させた音楽で、翌日の活動が行われた。


■二年目の状況変化
 2年目ということもあり、訪問先の方たちは活動内容を安心して待っていた。そして前述のように、ただ活動を受け入れるだけでなく、現地の意見を私達に伝えながら、活動に参加された。しかし、教育現場では1年目と大きな違いがあった。もちろん、それは当然のことであるが、学校教育は再興されつつあり、授業を遂行することに全力を傾けていた。つまり1年目は、諸状況による学校の混迷で、授業実施が厳しく、そういった状況のため、外部からの活動を受け入れやすい状態であったのかも知れない。おそらく2012年3月までは、学校や教育委員会の思考はそうであった。しかし、年度を超え4月になると状況は変わった。だから平時と同じように、新年度になってから訪問活動を申し出た場合、それは授業等の計画変更を伴うことになり、却って教育現場に迷惑を掛けることのように思えた。
 それから報道の記者からの質問に、1年目と違う質問があった。それは「今後も当地で活動を継続するのですね」といった内容であり、どの地でも言葉強く尋ねられた。


■意識の違い
 私達は一体、なぜ被災地で活動を行っているのだろうか?その活動は誰のためだろうか?実のところ、このような自問自答は、最初から付きまとっている。芸術活動とは、私的財的要素の強い活動であり、自己目的化されている。つまり、自己満足のために、表現活動を行っている側面が非常に強いわけである。その様なアーティストの資質には、本当に社会化された姿として、「奉仕の精神」が存在しているのだろうか?また、被災地の個々の現場では、本当に現地の方に寄り添う、オリジナルな活動展開を行っているのだろうか?そんな疑問を、常に感じている。だから、誰の満足のために行うか、よく踏まえた上での展開と、そうではない場合では、質的に大きな違いがあると言えよう。
 大震災後の5月頃から、一部のアーティスト達は被災地に入るようになった。しかし、それは市民活動団体や会社員たちより遅い動きであった。そして多くのアーティスト達は、夏頃から活動を始めたが、なぜ、多くのアーティストは肉体的奉仕を選ばず、本来活動としての表現活動で、現地に向かったのだろうか?多くの音楽家から、こんな声をよく聞いた。「自分たちは演奏でしか貢献できない」、「現地に行ったら東京の仕事のチャンスを失う」「現地に行くお金がない」「自分たちは所詮、日雇い労働者だ」。これらはあまりにも稚拙な発想ではなかろうか。日頃、私の研究テーマは「社会から必要とされるアーティストの在り方」であり、“Artist as Citizen”を模索している。もちろん、アーティスト根性も熟知しており、音楽家(アーティスト)側の思考と、その形成過程も理解できる。被災地支援活動において、ボランティア休暇を得て活動を行える人たちも居るであろう。しかし、月給を得られる団体に所属しているアーティストは少ない。そして、アーティストは手弁当で現地活動をする者、あるいは高額な対価を得て現地訪問をする者といったように、多種に分かれている。一体、被災地での活動は「奉仕活動」だろうか?それとも「事業」なのだろうか?あるいは「広報活動」なのだろうか?おそらく様々な背景、思惑が、当該活動には存在している。そんな諸状況が混在し、区分けすることを難しくしている実態も、被災地での活動の特徴であると言えよう。昨今、「復興ビジネス」という言葉をよく耳にする。さらには歪な実態を多く聞くようになった。芸術は人の心を表すものである。本来、純粋なものであり、アーティストの純粋な側面に期待したいところである。そして、被災された方たちの置かれた状況を鑑みると、私達は芸術の本質である純粋さを大切にし、現地の方に寄り添いながら、創造性を共有し、未来に繋げたいと思う。そんな意識を携えれば、“誰のための芸術活動か”ハッキリ見えてくるであろう。


■3年目に向けて
 新年早々、1月4日の午前、私は大槌町教育委員会から電話を受けた。それは、「来年度もトモダチ作戦 with Musicはあるのでしょうか?」、「もしあるのなら、ただ支援を受け入れるのではなく、ただ聴くのではなく、『トモダチ作戦』の『始まり』など、トモダチ作戦with Musicの事前事後に授業で取り上げ、計画的に行っていきたい」、「吉里吉里中学校に行って貰えませんか?米軍のヘリコプターは吉里吉里中のグラウンドに降りてきました。吉里吉里地区の人たちは米軍に感謝しています。その気持ちを大切に残したい」というお話しでした。私は直ぐに資金調達の重責を感じたが、それを上回る気持ちとして、今こそ“Arts in Education”の役割を果たす段階だと強く感じたのである。そして、「助成金の決定は新年度になってからですが、でも、それでは授業計画が立ちませんね。見切り発車で進めましょう」と応えたのだった。
 一度始めた活動の責任は重い。継続と現地負担を抑えながら、でも、現地と共に協働し、そして自立に繋がればと感じるが、それを創出していくのは未知のことである。活動継続のみならず、諸活動の運営が少しでも容易になる制度整備の必要性を感じる。また、奉仕活動、復興事業などの概念整理も必要であろう。被災地と共に、文化芸術の領域が成長、あるいは成熟していくことを切に願う次第である。
 最後に、現地との協議では、常に負担を相手に与えたくないと感じている。だから、教育現場に新年度になってから活動を打診することは、本意に沿っていない。学校にも教育委員会にも、そのような負い目を感じている。山田町の小学校でのこと、テレビ局の取材があった。カメラマンでもある記者に、私はこの負い目のことを話した。すると現地で戦士のように活動をしている記者からは、「煩雑で大変な作業をするのは事務方の仕事です。それより現地の人たちの、こんな喜んでいる様子を見て下さい」という言葉を頂いた。私は救われる思いを持った。


■参考
トモダチ作戦with Musicの助成団体(平成24年度):
アメリカ大使館、三菱商事復興支援財団、ステート・ストリート財団
取材:
岩手朝日テレビ、テレビ岩手、NHK福島、福島テレビ、福島放送、福島民報社、福島民友新聞社、いわき民報社

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