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試される文化芸術のチカラ14 ~平成の《広重》・巨大水彩画を前に

東北文化学園大学総合政策学部教授 東北大学特任教授(客員)
志賀野 桂一

「雪に包まれる被災地」の作者、水彩画家・加川広重さん(左)、絵の部分(右)


 巨大絵画「雪に包まれる被災地」が繋ぐ東北と神戸という企画が、アート・サポート・センター神戸の主催で行われている。(行われました。)会場となったKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)は、旧生糸検査所を改修・転用しユネスコ「デザイン都市・神戸」のシンボルとして、平成24年8月に誕生した新しい文化施設です。
 このKIITOホールの空間に高さ5.4m幅16.4mという巨大な水彩絵画が運びこまれました。写真で見てもわかるとおり、ホールの横幅と絵画の寸法が数ミリ単位でピッタリ収まり設置者の皆で大拍手となったそうです。あまりにこの空間に合っていて、昔から時間を超えて存在する壁画のようにも見えます。



主催者の島田誠さん(左)、ダンスパフォーマンス、今貂子さん(右)


 この巨大絵画を前に、4日間にわたりダンス・朗読・音楽・シンポジウムなどの様々なプログラムが組まれました。主宰の中心にはギャラリー島田の島田誠さんがいます。いうまでもなく島田さんは1995年の1・17阪神淡路大震災と、2011年3.11の東日本大震災をアートで繋ぎ心をひとつにする長い活動をしてこられ、今回その想いが詰まった企画となっています。絵の前でのダンサー・音楽家・パフォーマーはどんな啓示を受けて演じるのか、普段とは全く違った公演になることは間違いないと思われます。
 私もオープニングのトークセッションでお話の機会をいただきました。しかしながら、加川さんの絵の前では、どんなメッセージも意味をなくすほどの迫力に圧倒されます。
 島田さんはこの絵と仙台出遭い神戸に展示する決意を固めます。絵を評してこう書いています。「画家の受けた衝撃をインスピレーションの中で再生し、多大な時間と労力を重ねながら完成させた東北大震災の記念碑的な作品です。津波に破壊されて骨組みだけになった建屋。下部は津波に流される街(家々)。左手には陸に打ち上げられた巨大船、雪に包まれる被災地の情景がコラージュされたように圧倒的な迫力で描かれ、轟音も波音も風雪も悲鳴も破壊音も雪に包まれた無音の世界に封じこめられて私たちはただ立ち尽くすだけです。」(島田誠)
 この絵のモチーフとなった石巻の工場、南三陸、気仙沼の船、絵の近くに寄ると忽然と現れる街並み、写真では決してわからない絵画世界に思わず引き込まれます。
 ダンスボックスの大谷さんの言葉をお借りすれば、「災害の悲惨さを超えて一種の美しさを感じる」といいます。
 私も人間の情感を突き抜けた大きな力(=生命力)を感じさせてくれる黙示録的作品であると改めて思いました。
 東北から神戸へ、様々の偶然が重なりKIITOホールでの展示会が実現しました。東北以外の展示を望んでいた加川さんは「震災が絵を描かせてくれた、今回の展覧会は夢のよう。」と述べています。
加川さんは、「南三陸の黄金」という東日本大震災巨大絵画第2作目も完成させました。空洞感の中にも土地の生命感が宿る作品となっています。
 加川広重さん、宮城県蔵王町生まれ36歳の新進気鋭の作家ですが、その大胆な構図、間の取り方は江戸の浮世絵師・歌川広重?を彷彿させます。名付けて《平成の広重》と私は呼びたいと思います。


ダンスパフォーマンス、jung mi IM


(C)写真撮影:志賀野

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