ご覧のページは、これまでのコンソーシアムのホームページを活用し、コンソーシアムの活動記録や資料等をアーカイブ化したものになります。

試される文化芸術のチカラ15 ~かたりつぎ

東北文化学園大学総合政策学部教授 東北大学特任教授(客員)
志賀野 桂一

2013.3.1に行われた「かたりつぎ 竹下景子 朗読と音楽の夕べ」のシーン/於川内萩ホール


 震災から2年経過し、被災地の口述筆記によって集められた記録(=物語)をていねいに集め、人々に伝えていく(=語り継ぐ)ことは重要と考え、「かたりつぎ・竹下景子・朗読と音楽の夕べ」という企画が、東北大学川内萩ホールで開催されました。
 主催は、東北大学災害科学国際研究所/かたりつぎせんだい実行委員会/復興支援コンサート実行委員会(神戸)でした。私は、実行員会のひとりとして参加し、演出を担当させてもらいました。
 今回800篇の口述記録(オーラル・ヒストリー)の中から7編を抽出し朗読されました。この中の一編に「ガレキはゴミじゃない」がありました。数字にすると1,880万トンの瓦礫といわれる災害廃棄物、外の目線では膨大なごみの山ですが、住民にとって個人の持ち物や思い出や記憶の品々といった宝の集積物です。そのことを記述した一編でした。
 朗読では、「私はね、ガレキの中から時計を見つけた。土に埋もれていたその時計は、私が出版社のある賞をもらった時に記念でもらった物。時計は3時24分で止まっていた。それを見たとき、本当に大切な物達の悲鳴が聞こえた気がした。」舞台背景のスクリーンに3.24の文字。やがて、原田哲男の奏でるバッハの「アリオーソ」とともに止まった時間は再び動き出す。というシーンを演出してみました。



2013.3.1に行われた「かたりつぎ 竹下景子 朗読と音楽の夕べ」のシーン/於川内萩ホール


 3・1のイベントの後、こんなメールが届きました。
「・・・本当に私達被災者は 二年過ぎた今でも いいえ 幾分か生活リズムを取り戻せた今だからこそ 将来についての不安で 心 揺れ動いている人も多いです。どうかこれからも 私たちの心を拾い集めてください。・・・」
「ガレキはゴミじゃない」の物語を述べた石巻市の阿部邦子さんからのメールです。
 止まった時間を動かすのは容易ではないですが皆で動かしていく、その力になれば・・と思うのです。
 芸術家は、平時にあっても精神の浄化や苦悩の昇華といった作用を人々にもたらすことを自らの業としてきました。震災で傷んだ地域の回復は、被災地の人間性の回復なくして達成できないと考えます。多くのアートNPO、文化団体の支援活動が続いています。こうした活動に支えられ地元の住民が生き生きと自己表現ができる日常を取り戻すこと、とりわけ祭をはじめとする地域文化の復興が欠かせないことだと思います。私は震災復興には、人々の生存条件のみならず地域の誇りを取り戻す人間性回復という基本視座が重要と考えています。
 このブログの締めとして震災と関係が深い宮澤賢治の言葉を書きだしておきたいと思います。
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
この方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか
新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある。」
また、「われらに要るものは銀河を包む透明な意志 巨きな力と熱である」(農民芸術慨論より抜粋)
宮澤賢治のヴィジョンはいま被災地の東北に生き続けています。


(C)写真撮影:志賀野


 

コラムをまとめて読む場合は、下記からご覧ください。

関連コラム

ページトップへ