ご覧のページは、これまでのコンソーシアムのホームページを活用し、コンソーシアムの活動記録や資料等をアーカイブ化したものになります。

忘れない 文化芸術が紡ぐ絆を信じ 9 ~“想い出の歌”に寄せて、二つの出来事から

文化芸術による復興推進コンソーシアム エグゼクティヴ・コーディネーター
渡辺 一雄

東京フィルによる録音風景


 今回ご紹介するのは、東日本大震災被災地で閉校する小中学校校歌のCD化のお話です。
宮城県下の沿岸部自治体で余儀なくされている学校統廃合の動きの中で、地域拠点としてあった学校において永年歌い続けられてきた校歌には、精神文化的遺産として残すだけの意義は十分なものがあります。これをオーケストラ演奏により残そうという動きが出ているのです。
 「心のランドマーク」計画と呼称され、石巻市民生委員児童委員の蟻坂隆氏らが務める同計画実行委員会を中心に公益社団法人日本オーケストラ連盟などの関係有志、団体がCD制作(一般販売はしない予定。)に順次着手されるそうです。
 それぞれの校歌は、世代を超えて末永く地域の皆で愛唱され、絆としての役割を担ってくれることを関係者ならずとも願わずにはおれないでしょう。
 この企画は今後予想される被災3県から多くの要望が寄せられることも予想されるとして、今後の推移を見ながら計画に賛同される方々から物心両面の支援を要請されていることも明記しておきたいと思います。


東京フィルによる録音風景2


 さて話変わって、寒風が吹き荒れ粉雪の降りしきる過日のことです。福島県内の原発避難者のある仮設住宅を生活モニタリングで訪れました。やや高台にある建物は一昨年7月に開設され、3棟(150世帯)から成り、所帯人数規模に応じて1K~4Kまでとなっているそうです。
 訪問したのが週末ということもあり、外出する人が結構おられたためでしょうか、人影も子どもの声、姿は全くといって良い程ありませんでした。
 閑散としたなか、一か所だけは賑わっていました。集会所です。おりしも雛祭りを兼ねて多くの住人(大半は60代以上のご婦人と高齢者)が桜餅作りに精を出し、地区の善意で寄付された「雛人形」の飾り付けに大わらわ。地区のNPOの皆さんの協力で実現した企画だったそうです。
 ここで思わぬ体験をすることになったのです。そろそろお開きかなと思っている矢先でした。自治会長さんの指示で集会所に一曲の音楽が流れ始めたではありませんか。何と故郷の地元歌が皆さんで合唱されたのです。手拍子を交え大きな元気のある声に、私たちも加わったことは言うまでもありません。その歌詞は全員に見えるようボードに掲示され、私たちは懸命に一字一句を追いかけました。
 正確ではありません。故郷の自然の恵みとともに明らかに原発という科学技術の将来の繁栄を湛える歌詞が混じっていたように記憶しています。避難してこられてから暫くはこの歌を合唱するたびに涙が出たそうです。しかし、今はその涙すら出ない・・・との呟きも。それを聞いて切なくもまた複雑な思いを抱きました。


 この二つに共通することは何でしょうか。いうまでもありません。吹き付ける郷愁、郷土への変わらぬ思いが凝縮した故郷の歌=歴史的文化遺産であるということではないでしょうか。自分がそこで生きたことの証として、将来振り返った時間違いなく自分がそこに立っていて、無条件に自分を親兄弟、友と共に迎え入れてくれる音楽の力を湛えたいものです。


 


*写真提供はすべて(財)音楽の力による復興センター・東北
コラムをまとめて読む場合は、下記からご覧ください。

関連コラム

ページトップへ