初冬の “みちのく” 被災地支援邦楽訪問

文化芸術による復興推進コンソーシアム エグゼクティヴ・コーディネーター(公益社団法人 日本尺八連盟会員)
渡辺 一雄

 コンソーシアム賛同団体、(公社)日本尺八連盟が実施している、東日本大震災被災地の子供たちを学校に訪ね、尺八など邦楽の音楽を届けることで、心の癒し、復興の力に貢献しようとの取組も今年で3年目を迎えた。
 今回は去る10月30日には宮城県石巻市、11月4日には福島県福島市を訪問、小中学校で尺八の体験学習を含む邦楽演奏会を行った。


1.石巻市立中学校邦楽鑑賞、尺八体験学習訪問のあらまし


 最初の訪問校である桃生中学校(第一学年2クラス、10:45~「音楽」45分)では、箏・十七弦・三絃・尺八の合奏曲(奏者3人)の生演奏の鑑賞(春の海~五木の子守歌まで5曲)と、尺八の楽理解説・実技からなる盛り沢山なもの。
 授業時間がややタイトなためもあり、鑑賞に重点を置いた結果2コマの実技体験には十分な時間を取れなかった。
 なお、一昨年、塩ビ管の寄贈を行った後、石巻市の尺八連盟会員(大師範)がフォローアップのため同校を訪問、尺八指導を行っている。
 授業終了後、校長室で学校給食をいただき、職員手製の果物デザートを賞味した。校長先生とは被災後4年余を経ての子どもたちの様子についてお伺いをしたが、一部にはなお地震が揺れると心不安に思う生徒がいるとのこと。一層心の癒しが配慮されねばならないとの感想を抱いた。そうこうしているうちに午後の訪問校が我々を待っていることに気づき、小春日の北上川のほとりを車を急がせた。


(子どもたちの感想アンケートから)
 尺八吹奏体験が時間の制約で実現しなかったクラスからは、今後体験してみたいとの声もあり、体験できたがなかなか音が出ないため、難しいとの印象を抱く生徒、関心が湧かないとの声も率直に出ていた。鑑賞効果としては心を和ませる、生演奏の素晴らしさを讃える一方で、震災後の精神的痛手はなお残っており、音楽の力の評価は個々の生徒で違ったものになると思われた。


                                           桃生中学校での尺八・琴・三絃のコラボ鑑賞


 午後は飯野川中学校(全校生徒107人、13:50~ 合同授業90分)
 吹き抜け多目的ホール・ステンドグラスでの演奏、音響効果満点の演奏となった。
 大震災時もこの建物は全くの無傷だったとのこと、最高の条件での学習となった。鑑賞曲は午前と同様5曲。午前よりはゆとりをもった授業運び。後部には、地元の民謡尺八愛好家もご招待され、生演奏を堪能した様子。
 同校も来年秋には再演を検討。もっとも保護者の学校への関心は子どもの学力にあり、先ずは、「学力向上」をあげておられるとか。
 なお、市郊外にも依然「仮設住宅」があるとのことだが、浜から引っ越してきた住民の新築住宅が目立ち、前回訪問した2年前からの時間の経過を感じさせた。


(子どもたちのアンケート結果から)
 尺八体験の結果、半数近くの生徒が何らかの音出しに成功していたこともあり、また家族に尺八愛好家がいるケースなどから、継続して学習してみたいとの答えも一部見受けられた。
 鑑賞の感想としては、和楽器の生演奏の機会がほとんどないことや、身近な曲も選曲されたことで楽しかったとの感想、日本の曲への親しみ感をもったなど、積極的な声が出ていた。
 震災後の心の状態は個人差があると思われるが、音楽の力もその点評価が分かれ、辛い思いを抱き続けている子供たちの内面を思うと、本人はもちろん学校現場の先生方のご苦労もまだまだとの印象を強くした。


トップ画像:飯野川中学校吹き抜けホールでの生演奏


2.福島市立小学校邦楽鑑賞、尺八体験学習学校訪問のあらまし


 翌週は福島県文化センターの仲介による小学校2校の訪問となった。
 福島市は自主避難で児童が他県等に引っ越した者がいる一方で、原発放射能規制による避難区域から引っ越してきた児童が仮設あるいは借上げ住宅から通学してくるケースがある。
 11月4日、福島市西部に臨む吾妻山山麓は全山紅葉間近。その麓にある「佐原小学校」(創立140余年)の全校35人の可愛らしい児童たちは待っていてくれた。
 さすが山際とあり、冷気が漂う。しかし、チョークで書かれた歓迎の看板が玄関に用意され、演奏会場に通された多目的教室にはガスストーブの赤い火が燃えている。
 子どもたちに加え、おばあさんを含む保護者のお母さんが数名、一緒に鑑賞の輪に。
 今回初めての試みとなった薩摩琵琶と尺八でのアンサンブルは珍しい。


                           佐原小学校 薩摩琵琶と尺八の合奏、お母さん方も一緒に


 先生方も楽器を実際に触れることはこれまでに全くなく、興味津々といったところ。
 「琵琶の伝来はいつごろかな?」クイズ方式で楽器にまつわる質問。児童を巧みに惹きつける。
 「1,300年前に中国、朝鮮から伝わりました。さて何時代でしょうか?・・・」
 「はーい、明治時代!?・・・(笑い)」
 「ビーン、ジャラン、・・・バシー・・・」+尺八の合奏。薩摩琵琶のソロ “白虎隊” は、朗々たる謡とともに、ご当地に因んだ選曲。先生や保護者の皆様にはその琴線を揺さぶるには十分と映った。
 いよいよ塩ビ管で体験学習。5、6年生が激しい息遣いで試みるが・・・・。と数人から歓声が。
 矢吹善雄校長先生も負けまいと奮闘。
 あっという間の1時間。
 最後に児童からの質問。「途中で尺八を取り替えたのは何故?」(一児童)
 「うーんいい質問、良く見ていたね。琵琶の音の高さと合わせるのに少し長い尺八を使いました。でもちょっと難しいかも?」(坂田誠山)
 「本物の楽器で、日本の曲を弾いてもらったのは初めて。感動しました。」(児童会代表)
 そして一同大きな声で「ありがとうございました!」。
 相変わらずの日本晴れ。微かに安達太良山の頂が臨める。


(子どもたちのアンケート結果から)
 総じて生演奏が初めての体験であったことで、尺八も薩摩琵琶のその構造を含め、奏でる音色から大いに興味を持った様子がうかがえた。今後も継続して体験し、鑑賞の機会を得たいとの希望もあった。先生方もこうした子供の期待の応えられるよう、音楽等指導を通じて工夫して頂けそうとの感触が得られた。学校長からは、奏者二人に対して別送の封書(写真入り)が同封されており、丁寧な感謝の思いが伝わってきた。


                                        児童、母親、先生、そして校長先生も懸命に


 午後は続いて、福島駅から数分の距離にある全校400余人の三河台小学校(創立80余年)へ向かう。立て込んだ街中にあり、一歩通行が多く容易ならず。
 「こんにちは!!」3階の音楽室に待ちかねた6年生70人余りの元気な声。
曲目、演奏は午前に準ずる。「メドレー曲、さて何曲?正解者はハワイ旅行・・・これは冗談、でも温かい拍手が贈られます。」(坂田)
 ・・・“あまちゃん”・・・“花は咲く”・・・。「7曲!」「ほとんど全員正解。拍手」と、やにわに即興で、三河台小学校の校歌を尺八演奏でやってのけた坂田会長。
 同校は近々吹奏楽の小学校部門で「最優秀賞」を受賞してきたばかり。流石に体験学習でもほぼ半数の児童が数分で音出しに成功。(過去の経験でも最も高いレベル)
 「防災出前講座」で合同鑑賞に加われなかった5年生にも聴かせていただきたいとの学校側の熱心な依頼。結果、演奏時間を延長し、別の教室で鑑賞のみ。十分に堪能した様子。
 「現在、福島県小学校校長会会長を務めている立場から、こうした素晴らしい音楽を子どもたちに届けてくれる企画があるとは思わなかった。コンソーシアムのことも含め、校長会でも広報したい。是非、再演いただきたい。」(佐久間裕晴校長談)
 コンソーシアムの支援活動である民俗芸能の伝承NPOの立上げ、継承は学校の理解と協力に懸っていることを申しおいて、学校を後にした。
 なお、避難家族向け「借上げ住宅」からは、児童10数名が今も通学している。


(子どもたちのアンケート結果から)
 ここでも津波の恐怖、一人になると不安な思いが蘇るこどもの存在がうかがえる内容であったが、意欲的な事前学習の効果もあり、また、吹奏楽演奏に力を入れておられる普段の指導の成果として、大半の児童が尺八の音出しに成功していた。子どもたちも、そのことに満足していることが伺えた。


                                      三河台小学校 事前学習は周到なメモに 

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