ご覧のページは、これまでのコンソーシアムのホームページを活用し、コンソーシアムの活動記録や資料等をアーカイブ化したものになります。

地域との縁をつなぐ

日本大学理工学部教授
本杉 省三

総括会議の様子


 色々な立場、場所、方法で芸術文化活動に関わる人たちが集い、それぞれの活動内容を語り、意見交換をする。短時間のこうした場で、まとまりある成果を求めようとするには無理があるが、私はこの場に来ると、いつも新たな刺激を受け勇気付けられる。今回は、被災地の現場で活動する人、離れた地から支援を続けようとする人が、それぞれ報告とこれからの問題を提供し合うということに重点が置かれ、聞いていてずしりと来るところがあった。中でも、以下の5点がとても大切なことのように思えた。


 はじめの1つは、地域としてのアイデンティティをどのように再形成するのかというものである。街が失われ、人が引き裂かれた状態でも文化は残る、生き続けることができるとしたら、記録を伝えて記憶として行くことだという発言があった。その視点から言っても「習いに行くぜ!東北へ!!」(佐東範一)という姿勢は、私たちの心構えを問うものと気付かされる。被災後の状況や段階に応じて、色々な地域・人との関わり方、誇りの取り戻し方などがもっとあってよい。



 2つ目は、孤立しがちな子どもたちのために、もっと大胆な発想があってよいという発言だった。益々進展する少子高齢化社会においても、代わり映えしない文化施設と公共的活動のジレンマに対する苛立ち感が伝わってきた。震災後の調査でも、文化施設運営者の意識に表立った変化は見られないし、淡々と過ぎて行く日常に戸惑い感があるのは確かだろう。文化の+側面をもっと広く知ってもらう手立てを考えずにはおれない。


 3点目は、文化が有している未来形の力である。湧きあがる意志や情熱を形として表現し、それを展開し伝えて行くことで新たな文化・動きを作り出そうとするエネルギーが込められた話には引き込まれる。そのプロセスを共有することで、一方向的な「支援」でなく双方向性を持った「志縁」としようという考えは、「習いに行くぜ!」にも通じるものを感じる。


支援団体の取組紹介


 そして、4つ目が持続性の課題である。これまでどちらかと言えば緊急性に主眼が置かれてきたのに対して、今後はより長続きする支援の在り方、支援形態の仕組みなどが重要になってくるということで、そのための様々な事例が紹介された。支援団体も多くの人の気持ちを結び付けるための幅広い体制・仕組み作りに取り組んでおり、賛同者がそれぞれの立ち位置で関われるプラットフォームが提供されていることに震災復興に留まらない新しい価値の芽生えを感じた。


 最後の5つ目は、ネットワークと連携である。発表いただいたパネリスト、コーディネータ、また会場からいただいた発言に共通していることは、それぞれの活動は活動として十分に評価されるものだが、お互いにこうした場を通じて繋がりを持ち、ネットワークを形成して行くことで、それぞれの活動に広がりが生まれ、強化される。そこにコンソシアムとしての意義があるということだった。


 こうした心強い話しを聞くことができたことは、大きな収穫だった。私自身、これまで自分の専門的立場から施設中心の調査を行ってきたが、改めてポスト東日本大震災における芸術文化活動に生身で触れ、具体を知る必要があると痛感し、早速動き始めた次第である。ところで、自然災害によるストレス障害などは、これからがピークになってくるとも予測される。そうした事態をできるだけ少なく留めるために、芸術文化を通した私たちの復興推進がどのように役立てられるのか、各自の立ち位置と行動の真価が問われてくると強く感じた一日だった。

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