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東アジア共生会議2012レポート その2

公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 文化芸術制作推進業務部 制作推進業務課
大井 優子

山田洋二氏(映画監督)


東アジア共生会議2012、2日目は、山田洋次監督の基調講演ではじまりました。これまでの監督の映画人生に阪神淡路大震災、東日本大震災が大きく関係されていて、また東アジア共生という点でも、作品を通して語られたお話は示唆に富むものでした。


山田洋二監督は『男はつらいよ』全48作品の脚本・監督をされていますが、阪神淡路大震災の後、被災した神戸市長田区から、とらさんシリーズのロケ地にぜひ、と何度もアプローチがあったそうです。陽気なとらさんの映画を大勢の方の亡くなった被災地で撮影することはできないと何度も断ったそうですが、笑って元気になりたいから、と繰り返し申し入れがあったそうです。とらさんは普段秩序と無縁だが、秩序がないときには役に立つ。とらさんをめぐるトラブルを見て、観客が大笑いする。家族だけでなく隣人とも思いきりけんかして、関係を修復することができ、より仲良くなる。とらさんシリーズを振り返ると、家族を撮ってきたのだと思ったそうです。


新作の『東京家族』は、小津安二郎さんの『東京物語』をモチーフに製作されていますが、2011年4月にクランクインする予定が、東日本大震災でおよそ1年延期されました。60年前まで日本人は暮らしの形をもっていたものが、高度経済成長とともに失った。かつては同じ文化が、いまはバラバラの文化になった。東日本大震災後、「絆」という言葉が盛んにきかれるが、近年の喪失感が絆という言葉をとらえたのではないかとお話されていました。


また、東アジアからヨーロッパに留学し、映画を学んでいた学生が、学校で『幸せの黄色いハンカチ』のラストシーンをみたときに、まわりの学生との違和感があったそうです。戦争から戻った恋人同士の再開のシーン、見つめ合って手を取って家の中に入る。ヨーロッパ的な感覚ではもっと大げさな感情表現になるような場面で、多くの学生は物足りなく感じたのか笑っていた中、留学生の子は、自分はこの表現がわかる、と映画に共感したそうです。


基調講演をうかがって、作品の製作には土地や時代の文化が反映され、受け手の文化的背景でまた受け止め方が変わってくるということを、改めて認識させられました。そういう意味で東アジアは同じ文化圏であり、これからの発展をともに考えていくパートナーなのだと思います。前日のルーブル美術館フェラッツィ副館長の話では、ご自身はイタリア出身だけど、EU圏となったからフランスで現在の仕事が可能になったという話もありました。普通に生活している上では、東アジア圏ということをあまり意識しませんが、天災が絶えない東アジアの連携・協力がどういった形でもたれていくのがよいのか、考えるべき時にきているのだと思いました。


東アジア共生会議2012 セッション2


後段のパネルディスカッションでは、アーカイブについて日本と海外の事例等も紹介がありました。アマチュアのアーカイブ文化の醸成が必要という考えや、インドネシアで2004年に起きたスマトラ島沖地震の経験からも、アーカイブは記憶を貯蔵するのではなく、連帯だという発言もありました。総務省がデジタルアーカイブ事業を進めていますが、情報をどのように集め、どのように社会に活かしてしていくか、そのプロセスも重要になってくると思います。


上智大学のデビット・スレイター准教授は、学生のボランティアを組織し、被災地でのきき語りを行っているそうです。3.11前の生活、3.11から今まで、将来についてうかがったとき、地域の問題は、3.11の前から起きていることが多くの方の話しの中で見えてきたということに加えて、参加した都会の学生の中には、集落が何を意味するのかわからなかったけど、きき語りを行ったことで理解できたといったことがあったそうです。繰り返し話をすること、関係性を維持することが重要だということを強調されていましたが、被災地もさることながら、日本社会のいたるところで必要とされていることではないでしょうか。


学習院大学の赤坂憲雄教授は、「細分化された縦割りの提案をまとめる国のやり方には限界があり、民間でやわらかくネットワークする時代。コミュニティや小さな記憶の場の復元が求められているが、地域の博物館が記憶の場として働いていなかった。文化行政の力が必要である。」と強調されていましたが、現場で機能するためには、地方自治体、そして国の考え方の整理と必要な人材の配置といった具体的な変革が求められます。


この2日間、震災を軸に東アジアの共生について交わされた言葉の中で、いくつかの方向性が見えてきました。ぜひ、それぞれを前に進めていってほしいと思います。


写真提供:文化庁

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