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『希望の木』―1冊の本から広がる世界

公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 文化芸術制作推進業務部 制作推進業務課
大井 優子

陸前高田(2012年3月11日)


大きな津波が襲った陸前高田の松原に残された1本の木。2012年の3月11日に、私も現地で対面しました。その日は、支援イベント*のため、被災されたミュージシャンの方々、東京から駆けつけた歌手の方々と上長部地区を訪れていました。みなさん厳粛な気持ちでこの日を迎えていらっしゃいましたが、つかの間、音楽に癒され、明るい気持ちになる、そんな時間が少しでも前に進むほのかな灯りになれば、と思いました。地震による地盤沈下で、海のそばでは一部道路が水浸しになり、車の通りも少なくなっていましたが、本当に1本だけ「ここにいます」と寂しそうに立っていた姿が目に焼きついています。


新井満氏(作家)


あれから1年、作家の新井満さんが陸前高田の1本松を題材に書かれた『希望の木』の存在を知り、ご自身の朗読をきく機会を得ました。素敵な声の表現に加え、新井さんが作曲された音楽で情景は臨場感を増し、バックに流れる山本二三さんの美しい絵で想像の世界が広がりました。新井さんの散文詩に感動された美術監督の山本さんが、アニメーション映画**の製作に着手され、その原画を背景とした舞台となっていました。当日、会場には『希望の木』をもとにオペレッタを創作し、文化祭や新入生歓迎会で上演している埼玉県の彦糸中学校のみなさんも会場にいらっしゃっていました。


山本二三氏(美術監督)、新井満氏


トークセッションでは、「1本松がどうして残されたと考えますか?」そんな問いかけもありましたが、まさしく「事実は小説よりも奇なり」ではないでしょうか。パンドラの箱のように、すべての災いが飛び出していったあとに、唯一「希望」が残った。陸前高田の1本松の存在に、勇気づけられた人がどれだけいるかは、計り知れないと思います。『希望の木』では、ひとりぼっちになってしまった松の木の精の気持ちが、切々と伝わってきます。そして、みんなの分まで生きよう、みんなの“おかあさん”になりたい、と思うに至る。―美しい写真とともにひとつの物語が記されたことで、多くの人が追体験することができ、さらに様々な形で創作の輪が広がっていることが、また大きな希望につながっていると感じました。


*参照URL http://bunka-tsunagu.blogspot.jp/2012/03/blog-post.html
**参照URL http://kibounoki.com/index.html

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