「やりたいこと」と「やるべきこと」

ARCT代表
千田 優太(ちだ ゆうた)

トップ画像:文化庁 平成27年度文化芸術による子供の育成事業(芸術家派遣事業)
                『おはようシアター☆おもちゃ箱』


【ARC>TからARCTへ】


 話を始める前に、簡単に私どもの団体「ARCT」の経緯をご紹介させてください。東日本大震災直後、主に仙台の演劇やダンス関係の舞台芸術関係者が集まり、私たちが今何をできるのかを話し合いました。その中で生まれたのが「アートリバイバルコネクション東北(略称:ARC>T(あるくと))」です。被災地の現状を調査しながら、「私たちにできることがあればご相談ください」と告知していました。ニーズに応えるというやり方に徹して活動をしていました。通称「出前活動」と呼んでいます。避難所や幼稚園、児童館、高齢者福祉施設、障害者福祉施設など、さまざまなニーズに応えてきました。
 また、全国各地から多くのご支援をいただき、その窓口となる役割も果たしていました。北九州や横浜、東京、新潟など、仙台の劇団やカンパニーを招聘いただき、公演の機会を通して人の繋がりが深まりました。
 このような活動を2年間、目まぐるしく変化する状況の中で必死に目の前のことに打ち込んできた印象です。
 このアートリバイバルコネクション東北は、立ち上がりから2年間の限定的な活動としてスタートしていました。2年目の終わりをむかえるにあたり、今後どうしていくべきかを話し合いました。多くの意見、アイディアが出されました。


●震災復興はまだまだ終わっていない。むしろ、これからこういった活動が大事になってくる。
●この活動は果たして震災復興のためなのか。むしろ、もともとあった社会の課題が震災によって目に見える形になったのではないか。
●震災復興の目処が付いたとき、この活動は必要ないものなのか。
●震災後の混乱期に急場しのぎで作られた団体なので、継続できるような体制が整っていない。


 主に上記の4点の考えを大事にし、震災復興支援に特化した団体であるアートリバイバルコネクション東北に区切りを付け、普遍的な目的を掲げた団体として新しく再出発することに決まりました。それが現状のARCT(あるくと)です。


 誰もがアートに触れることができる社会をつくるために、人や場を繋ぐ担い手になり、有機的なネットワークをつくることを目的として、「ネットワーク事業」「アウトリーチ事業」「パートナーシップ事業」「アーカイブ事業」の4つの柱を軸に活動しています。これらの活動の一環として震災復興の活動を継続しています。


【被災地の現状】


 私たちの活動において調査というところまで手が回っていないので、あくまでもアウトリーチ等を実施しての感じていることです。特に小学校や児童館、幼稚園など子どもに関するアウトリーチが多いので、そういった観点からの話が中心になります。
 よく施設の方から耳にするのは、震災の影響で人の異動が多くあり、誰がどのような震災経験をしたのかを把握しづらい状況ということです。仮設住宅から復興住宅だけではなく、仕事による異動、家族環境の変化による異動などと同時に、教師や施設の職員も異動があるためです。震災の経験がより個人の内側へと隠れていき、わかりづらい環境になってきています。震災復興において文化芸術の力で大きな効果が期待できるのは、心の復興だと感じていますが、この現状を考えると沿岸部だけではなく広範囲に対してアプローチが必要なのだと思わされます。
 沿岸部の工事等もすごいスピードで進んでおり、以前の風景がどうだったのか思い出しにくいほど変化しています。
 ただ、福島の現状は宮城や岩手とは大きく異なっている印象です。今年7月にやっと開通した6号線を通ったのですが、横に曲がる道はもちろんのこと、道路沿いに並ぶ家々の前にもフェンスが立ち並び、入ることができない状況でした。児童福祉施設に働く人に震災のときのお話を伺っても、宮城では揺れた時のお話になるのですが、福島では地震後の生活について現在進行形で話されます。避難区域が解除されても子どもたち(若い親子など)が戻ってこないという話も多いそうです。


                                        2015年7月16日 福島県6号線の風景


【ARCTの現状】


 ARCTは3年目(ARC>Tから数えると5年目)になります。2011年から継続して実施しているアウトリーチ事業によって、特に宮城県内の小学校など児童・幼児関係の中で広いつながりが生まれています。また、同じように毎年実施している芋煮会も5回目を無事に終えることができました。規模や参加者は都度変わっていますが、毎回新しい出会いが生まれ、震災の当時を振り返る良い機会にもなっています。仙台市や劇場とも連携を図り、さまざまな事業を協働する機会もでてきています。


 一方、ARCTとして現状かかえている問題としては、団体の体制づくりが大きくあります。もともと舞台芸術を専門とするメンバーで構成されているため、現在の社会で通用する組織作りに対する知識や経験がほぼ無いため、ARCTとして新しくスタートしたあとも手探り状態で、話し合いが続いています。今年度より、市民活動の中間支援団体に所属する方を理事にお招きし、体制づくりに関して大きく進展することに努めています。


                                     ARCT芋煮会2015-せんだい演劇工房10-BOXにて


 また、ARCTとしてスタートした際に、継続を見据えた事務局のスリム化をおこないました。前身のアートリバイバルコネクション東北のときは、全体で方向性を考え、事務局が率先して企画・運営をおこなっていました。ARCTでは、事務局をスリム化すると同時に、それぞれのプロジェクトの企画・運営を有志のメンバーがおこなっていく形式にしました。その中ででてきた問題点が、企画・運営を率先しておこなうメンバーが少ないということです。メンバーを構成する多くを実演家でしめているため、こういった制作・プロデューサー的な思考や行動が出てきにくいのではないかと感じています。


 「役者がやりたい」「踊りたい」「自分の舞台作品をつくりたい」「多くの舞台現場の照明に入りたい」など、本来のそれぞれの願望があります。その中で、ARCTが抱える問題である「しっかりとした体制をつくるべき」「メンバーがより活動できる枠組みをつくるべき」「事務局の仕事をしっかりとするべき」といった「やるべきこと」が、どうしても後手に回ってしまっている印象です。
 「やりたいこと」と「やるべきこと」がしっかりとつながっている団体を目指して、これからも悩みながら進んでいきたいと思います。


                         仙台市主催『ふりかえる はなす すすめる プロジェクト』
              シンポジウム「舞台芸術が担う防災活動とは」


 これまでの活動を全国の多くの方々から支えていただき、今の私たちがいると強く実感しております。最後になりましたが、心より感謝申し上げます。


 

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プロフィール

ARCT代表
千田 優太(ちだ ゆうた)
1980年生まれ。宮城県塩竃市出身。
アートリバイバルコネクション東北事務局、ARCT事務局長を経て現代表。ダンス幼稚園実行委員会代表。「猿とモルターレ」実行委員会代表。現在、芸団協が実施している「国内専門家フェローシップ制度」によりNPO法人JCDNに短期研修中。小学校教諭とコンテンポラリーダンスの経験を元に、東北における舞台芸術のために企画・制作をおこなっている。三陸国際芸術祭事務局、「とつとつダンス part.2愛のレッスン~仙台公演」現地制作など。

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