ご覧のページは、これまでのコンソーシアムのホームページを活用し、コンソーシアムの活動記録や資料等をアーカイブ化したものになります。

支援・受援ネットワーク会議を終えて

日本劇作家協会東北支部長 『架空の劇団』代表
くらもち ひろゆき

生活と産業と芸術を一体として考える


 文化芸術という側面からの復興を考えた場合、やはり第一義は「郷土芸能」や「祭り」など、元からその地域に根付いていたものを復活させるという段階で、これについてはさまざまなレベルで上手くいきつつあると思います。
 ただ、震災は元からあった過疎の問題など、対策の難しいことをさらに加速させてしまいました。つまり元に戻しても、それは問題の根本的な解決には至らないということです。


 だからといって、外から支え続けるというのは、現実的ではないと考えます。さらに、地域的な都市環境の差は大きく、どこを取ってもそれぞれの地域に個別の問題があふれているため、全部ひっくるめた対策が可能かというと、それも難しいでしょう。結局、そこに住んでいる人たちが、外からの支えを借りながらも、自立した復興のアイデアを自ら勝ち取っていく、というのが理想的だと思います。


 そのためには、生活と産業と芸術を一体として考え、どうバランスを取り、発展させていくかを考えなければならないと思います。本当に簡単ではありません。
今回の会議での発表は、風化しつつある震災を伝えるという側面も、具体的な芸術文化復興支援の側面も、未来に向けた子ども支援の側面もありました。しかし、地域の文化芸術の担い手は、職業的芸術家ではなく、同時に生業を持つ生活者なので、その生業が成立していないことには、文化芸術も萎んでいってしまいます。だからといって、生業、仕事さえあれば良いというものではないのは、復興に際して、祭りや郷土芸能を復活させたいと考えた被災地の人々が、真っ先に立ち上がったという事実を見ても、明白なことだったと思います。


どのようにコンソーシアムと関わっていけるか


 自分がこれまでやって来たことと、スキルを生かしてこれからもできることを考えると、やはり「演劇」をツールとして使うことが最も手っ取り早く、かつ効果的であろうと考えます。


 具体的には、これまで、盛岡市文化振興事業団の事業で、10年ほど、学校へ演劇ワークショップを届ける事業に携わってきました。平成23年度からは、文化庁の助成も頂き、盛岡市内だけではなく、県内全般に広く演劇ワークショップを活用してもらう機会が増えました。この事業は、子どものコミュニケーション能力や、表現力、発想力の向上に、幾ばくかの寄与をしたのではないかと自負しています。


 また、転校生やコミュニケーションが難しい子、不登校の子、あるいは、子ども同士のグループ化やいじめの問題に関しても、どうやら前向きな効果があるらしいことは、これまでの経験から徐々に明らかになってきています。
 震災から3年が経とうとしているこの時期、被災地や、被災地から移住し、新しい社会に適応すべく奮闘している子どもたちに、演劇の力がとても役に立つのではないかと考えています。
 阪神大震災の後も、やはり3年後あたりが、子どもが荒れるピークだったようです。震災を含め、さまざまな被災地支援やボランティアとの経験で、子どもたちが刺激を受ける容量は一杯一杯になっていると考えられます。それをどうやって吐き出し、表現するのかがこれからの課題ではないかと考えています。
 経験を表現として吐き出し、なおかつその過程で、安全にコミュニケーションを取り、お互いの理解を深めるために、演劇を作る、演劇ワークショップを行うことは、実に効果的だと考えられるのです。しかし、この事業を安定的に運営する仕組みも予算も脆弱です。


 この他、震災直後に避難所や自宅で何を食べていたか? ということを取材し、朗読劇に構成した作品があります。取材の過程で、岩手県山田町で被災した、藍染作家と知り合いました。この作家の作品は、山田の自宅で津波に遭って潮をかぶったものの、流されずに済んだ、というものでした。この作品を舞台美術に使わせてもらい、横浜、盛岡、遠野と上演しました。
 この作品は、基本的に被災地から遠くの土地で、被災地のことを伝えるという役割を意識して作ったものです。この作品を上演することや、例えば藍染の作品展と同時に開催するとか、そういったことも風化に抵抗する一役を買えるかなと思ったりしています。


 自分が何をどうできるのか?
 常に自問しながら、復興推進に関わっていければと思っています。




くらもちひろゆき(倉持裕幸)
 1966年茨城県坂東市生まれ。盛岡市在住。寺や産婦人科、保育園など、人生の節目に関わったり関わらなかったりする場所を舞台に、重箱の隅をつつくような会話を得意とする。震災後は、被災直後に現地の人たちがどんなものを食べていたのかを取材した朗読劇「瓦礫と菓子パン~リストランテ震災篇」を発表。また常磐線乗車中に被災し、盛岡に帰るまでの体験を元にした「震災タクシー」を青森の渡辺源四郎商店と合同で制作。全国5都市で公演。
 2005年より演劇ワークショップファシリテーターとして、岩手県内各地の小中学校で出前ワークショップを行う。
 日本劇作家協会東北支部長。もりげき演劇アカデミー講師。劇作家・演出家・俳優・架空の劇団代表。



コラムをまとめて読む場合は、下記からご覧ください。

関連コラム

ページトップへ