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震災後2年目をむかえて福島市における子どもをとりまく状況

福島市子ども劇場連絡会
川村啓子

 震災から約2年が過ぎようとしています。福島市では、原発事故による放射能汚染問題を抱えた状況が、生活の中で最大の問題です。行政は、国も県も市もすべて、除染が最優先といいながら、個人住宅までとなると、なかなか進んでいる気配は感じられません。母親達が抱く危険感と子育てへの不安については、早い時期から個人差がありましたが、時間が経つにつれて、その違いは、種類のちがうストレスを生み出しています。自主避難も本当に様々な形があり、様々な問題があります。早期に、より遠いところへ家族みんなで避難したケース。週末や長い休みには県内外に避難するというケース。2011年夏休み、冬休みを過ぎると、その度に自主避難で県内外に転出する親子の数は増加しました。2012年4月になると、本格的に住所を移して転出する家族もあり、また逆に、福島に戻ってくる親子もいました。始めは母親と子ども達だけが転出避難をして、1年後には父親も避難先から福島に通勤するようになった家族。母親と小学生の弟妹だけが県外に避難して、父親と高校生は福島で生活している家族。始め、母親と乳児で首都圏に避難していたが、子育てストレスで母親の精神状態が不安定になり、福島に戻り、その後父親も一緒に宮城県に避難、父親は現在福島に通勤している家族。等等・・・。これらすべて子ども劇場の会員の例です。公共施設、公園等除染され、空間線量は減少しているといわれてはいますが、放射能の低線量被ばく、積算量、食物による内部被ばくのことなど、放射能への不安がなくなることはありません。これから先あとどのくらいと判断するのか、判断できるのか。何をどう考えて決断するのか。一人ひとりの思いがあり、様々です。今や、この放射能への危機感、不安感については、お互いの持ってるリスク度が違うことで微妙な関係を生まないために、あえて話題にしないようなところもあります。
 福島市には、県内の沿岸地方、原発の警戒区域等から避難や移転で転入している子ども達もたくさんいます。避難所から仮設住宅、借り上げ住宅等へと転々としながら、現在の住居も様々です。バスで通学しながら学校生活をしている子ども達もいます。震災後、私たちは、子ども劇場の公演に、そのような転入の子ども達と家族を招待するというとりくみをしました。2011年6月、震災後3か月頃には数組の家族が来場し一緒に楽しむことができました。ところが、震災から約2年になろうとしている最近の公演では、そのような招待券で参加する親子は0組でした。また最近、仮設住宅でワークショップを行なったところ、そこに子どもの姿は見えたのに、仮設の子と思われたくないらしい様子を感じたということでした。子どもは日々成長していくもので、子ども自身も、それを見守る大人も、日常生活が特別なものではなく、あたりまえの状況でありたいと願うものです。仮設暮らしだとか、転入児童だとか、線引きされたようなことに抵抗感があるのは当然かと思われます。大人は子ども達の未来に責任を持って健やかに成長するためのよきサポーターであるべきです。長い子どもの成長を考えた時「特別な状況の中で」というよりは、「あたりまえの毎日の中で」こそあたりまえの子育てが安心してできるのではないかと思います。だから、福島のすべての人が早くあたりまえの毎日に戻りたいと思っているのです。
 2011年11月に福島大学の白石昌子先生による講演会「福島の子どもの心と身体の健康のために」を開催しました。小さい子どもを持つ母親達の不安を少しでも軽いものにできればという思いでとりくみました。先生の持論は「子どもの健康な身体と心を育てるには、大人の覚悟が必要である」というものです。本来の子どもの育ちにおいて何が大切か、大人のあり方とは?という、子育ての原点をきちんととらえる必要性についてわかりやすく伝えられました。放射能の問題は大きな問題ではあるけれど、見解が分かれるところもあり、それでも、何が真実かも含めて何を信じるか、どれだけ覚悟ができるか、ということにつきると思いました。若いお母さん達にも大変好評で、2012年11月に再び白石先生の講演会を開催しました。参加者からは、「便利な生活から発生する子どもの成長の問題に加え、「フクシマ」として注目を受ける生活環境に、豊かさとは・・・?と思わずにはいられません。ですが、これにとらわれることなく、本来の子どもの育ちに対し、意識してかかわる大人であることの大切さに気づかされました。「子ども」を考えるいい時間をいただきました。」というような感想が寄せられました。
 2011年12月から2012年1月にかけて、市内の幼稚園保育園等へのボランティア出前公演を30ステージ程行ないました。震災後たくさんの団体がボランティア公演で訪れたそうですが、外での活動を制限されていた福島の子ども達は、何か月過ぎようと、目の前で演じられる楽しいステージには自然と笑顔がこぼれるようでした。お手伝いした私たちもですが、出演者にとっても、先生方にとっても気持ちが温かくなる時間でした。また、全国の子ども劇場おやこ劇場と創造団体等の支援で、「花咲かせ公演」を開催しました。2012年10月から12月にかけて、福島市内で20ステージ約4000名を超える親子がプロによる生の舞台芸術を楽しみました。子どもはすべて無料招待ということで、地域のたくさんの大人たちの協賛と支援をいただいてとりくみました。私たちは長い間の経験で創造団体との関係づくりもできていて、さらに、普段、地域の中で活動していることを最大限に活用すれば、たくさんの子ども達に生の芸術文化を届けることは決して難しいことではないと思います。こういう時こそ、いつもの活動に少し幅をもたせていけばできることがあるということを実感しています。

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