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試される文化芸術のチカラ 4 ~十和田

東北文化学園大学総合政策学部教授 東北大学特任教授(客員)
志賀野 桂一

(写真左右)栗林 隆WATER >|< WASSER(栗林隆は一貫して人間と自然の関係性を表現の主題とし、「境界」をテーマに作品を展開しています。)


4.「境界線を生きる」~まちづくりと美術館


 通り全体をひとつの美術館に見立て、官庁街通りという屋外空間を舞台に、多様なアート作品を展開していくコンセプトのもとに2008年度に十和田市現代美術館が開館しました。十和田市を個性あふれる『アートの街』『感動創造都市』として印象づけることを目指し、美術館向かい側の税務署跡地や通りの各所にも作品が配置され2010年春に完成しています。


 十和田市は、かつて馬産地として栄えたといいますが、現在は人口6万5千人のまちで商店街もシャター通りといわれるほど寂れています。何度か訪問していますが、日曜日にもかかわらず人通りはほとんどありません。唯一例外的に美術館の周りには若い人を含め多くの人出がみられます。この美術館に寄せるまちの期待は大きいことがわかります。
「まちの活性化とアート」というテーマを与えられたときまさにアートの力が試されているまちと思います。こうした中で商店街の店主の方々の「ただ者ではない」存在には驚かされます。下の一枚目の写真は松本茶舗店のご主人と奥さんです。栗林 隆さんの「地下室に日本列島を再現する」作品が企画展のため設置されていたこともありますが、栗林さんのこうした、やや難解な作品の意図を見事に解説してくれるばかりでなく、こうしたまち中に作品がおかれる意味や、トマソン(赤瀬川)を例示しながら、まちなかの様々な物件がアートと見立てることなど美術評論家並みの説明でした。


 十和田市現代美術館はまた「新しい体験を提供する開かれた施設」として、22の恒久設置のアート作品の展示のほか、文化芸術活動の支援や交流を促進する拠点と考えられており、商店街の空き店舗や実際に使っている店舗に作品を設置する企画展が行われ、ボランティアのまちなか作品解説ツアーなどが常に用意されています。
 設計の西沢立衛によるこの美術館の特色は、個々の展示室を、「アートのための家」として独立し、敷地内に建物が分散して配置され、それらがガラスの廊下でつながっていることで、屋内展示室 と屋外アート空間が交互に混ざり合っている点です。アート作品と都市が有機的に混ざり合っているといえます。美術館と美術館に見立てられた通りの境界をあいまいにする狙いのようにも見えます。
 栗林の各品も「境界」をテーマに行われましたが、東日本大震災を経て、私たちの自然に対する考え方が一変したいま、アート作品を通して人間の根源的な感性や環境に対する深い思いをあらたにします。
 副館長の藤浩志は、「アートの価値のありようは、その時代が何を求め、どこに向かって集権型の社会システムから脱皮し、ネットワークを前提とした循環型社会への転換が求められる現在、地域に求められる価値のあり方も随分と変化しています。」と述べていますが「地域に求められる価値のあり方」はまさに松本茶舗店の店主のような方々の行動にあるのではないかと、名物のB級グルメ<バラ焼き>を食べながら考えたのでした。(写真撮影:志賀野 桂一)(写真)まちなか会場:松本茶舗


 


(写真左右)十和田市官庁街通り

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