試される文化芸術のチカラ 1

志賀野 桂一
1 . バリ島ヌガラのジェゴグから
珍しいJegogジェゴグが聴けるというのでバリ島クタ近郊にあるKEMANGIクマンギというレストランシアターにいきました。この竹で作った打楽器のオーケストラはまるで音の砲弾が飛び出す武器のようです。別名竹のガムランとも言われています。
バリ島西部ヌガラの伝統芸能として伝わった巨大竹筒打楽器です。最大の竹は長さ3m、直径18cm、肉厚2cmほどもあります。4つの音階で1チームが14台で構成されるアンサンブル演奏で、二つの異なるグループが舞台に並び演奏を競い合う、合戦形式の演奏が特徴です。相手の伴奏につられたりしないようにしながら、体力の続く限り昼夜を問わず続けられるためバリヒンドゥー教3つの神様の中のシバ神が宿っているともいわれます。音楽の格闘技といわれる所以です。
しかし、オランダがバリ島を植民地としていた当時、ジェゴグに使われる竹筒を武器にされることを恐れたオランダ軍はジェゴグを禁止してしまいます。近年スアールアグンのリーダー、スウェントラ氏によって復活し、ジェゴグの音が再現されています。
このグループは、震災日本の復興を願って今年、東京をはじめ仙台、新潟などで公演を行ったので、ご覧になった方も多いと思います。びっくりすることに団長は大阪弁まで話す日本通です。
ジェゴグの伝わる『ヌガラ』とはサンスクリット語の「町」という意味ですが、文化人類学者のC・ギアツ(Clfford Geertz,1926-)が『ヌガラ』とは文明を表す言葉で、高い文化を中心に政治権威と一体となった都市と述べています。「小王国」といった言葉が近いようです。ちなみにこの反対語は『デサ』だそうです。
東北に伝わる数々の伝統的郷土芸能も、こうしたアジアの芸能と通じ合える要素が見られます。民衆と、その地の習俗・宗教が一体となって育まれ、集落の紐帯となってきたと思われます。今後も東北目線で報告していきます。
*【スアールアグン芸術楽団】
ジェゴグを復興させたスウェントラ氏が率いるジェゴグ演奏団。フランス・ワールドカップの開会式や、毎年日本公演を行い、鼓童、坂本龍一、東儀秀樹など各界のアーティストとも競演する。卓越した演奏テクニックと氏の人柄が作りだした、「バリ島の伝統芸能=神々への捧げもの=神々と一緒に楽しむもの」を指針として、観客もジェゴグを体で体験できる演奏を実現している。
