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子どもたちを笑顔に ―日生劇場の取組

公益財団法人ニッセイ文化振興財団 統括部長
島 啓之

東日本大震災を受け、我々に何ができるのか何をすべきなのか、様々な検討を行いました。そこで至ったのが、日生劇場が得意としている分野で被災した皆さまのお役に立ちたい、という結論でした。 日生劇場では毎年夏に「ファミリーフェスティヴァル」と題し、親子向けにクラシックコンサートや人形劇、日本の伝統芸能、バレエ等の様々な演目を上演しています。 日生劇場開場30 周年にあたる平成5年からスタートし、これまでに約30 万人の皆さまに舞台芸術の楽しさをお伝えしてきました。そこで培った制作や上演のノウハウ、出演者とのパイプを活かして被災地での上演をすべく、震災後すぐに具体的な検討を始めました。 日生劇場での演目を小規模な会場で上演できるようにリフォームし、旧知の音楽家や劇団に声を掛け、演目と出演者は何とか4 月には固まりました。 問題は会場探しでした。各地の自治体やホールに連絡するも、まずは電話が繋がらない。繋がったとしても、とても受入ができる余裕は無い、との状況が続きました。



ようやく、以前日生劇場での公演に関与され今は仙台におられる方や、ご自身も被災され大変な中、我々の企画に賛同下さり仕事を引き受けて頂けた仙台フィルの方のご協力を得て、5 月20 日に宮城県の亘理町で最初の人形劇公演を行うに至りました。 避難所生活が続き余裕が無い状態で、どれだけの子どもたちが来てくれるのか不安でした。しかし、地元の皆さまのご協力もあり会場の児童センターには200 人を超える子どもたちが集まってくれました。最初は固い表情が多かったものの、劇が進むにつれ会場は子どもたちの笑顔であふれました。終演後「こんなに大きな子どもたちの笑い声を聞いたのは久しぶり」とのお話を伺い、来てよかったと実感しました。


この活動はその後も毎年継続して行っており、これまでに



の計22 ヵ所で、クラシックコンサートや人形劇の無料公演を続けてきました。


この間、毎年被災地を訪問するたびに復興が進み、生活されている皆さまの表情が明るくなるのを目にし、皆さまのバイタリティに敬服すると同時に、我々の役割もそろそろ終わるのかなと感じることもありました。


そんな折、目にしたのが兵庫県教育委員会が作成した「災害を受けた子どもたちの心の理解とケア」と題された冊子でした。阪神・淡路大震災の翌年から14 年にわたり小中学生の心の健康の変化を調査した、大変興味深い報告書でした。そこには、「心の健康につき教育上の配慮が必要な状態にある子どもの数がピークを向かえるのは、震災直後ではなく4 〜5 年後であった」と書かれていました。恐怖によるストレスは時間の経過と共に軽減するが、「狭い仮設住宅での生活が長期化する」「地元を離れざるを得なくなったが転校先で馴染めない」等による後発ストレスは、時間の経過と共に増大することが指摘されていました。


実際に我々が訪問する学校の先生からも、「外見は被災前の状況に戻っているが、環境の変化に馴染めていない児童も少なくない」「必要な支援は衣食住等の外面支援から心のケアの内面支援に移ってきている」「震災後しばらくは多数行われていた子どもの心を和ませるイベントが最近めっきり減っている」等のお話を伺いました。 これまでは各地とも大変な状況があり、我々がどこに伺ってもそれなりの効果・意義がありました。しかし3 年が経過し復興の度合いにも地域差が見られる中、後発ストレスにさいなまれ我々の活動をより必要となさっている場所を選んで訪問しないといけない、との思いを強くしました。 しかし東京にいては現地のきめ細かな情報はなかなか手に入らず、模索していました。そのような時に参加できたのが「文化芸術による復興推進コンソーシアム」による「支援・受援ネットワーク会議」でした。私にとっては渡りに舟でした。会議において私の悩みをお話ししたところ、参加されていた自治体の方から甚大な被害を受け今も大変な状況が続いている学校についての具体的な情報を頂けました。



今年も6 月に被災3 県の4 ヵ所を訪問しますが、その内3 ヵ所はこの会議がきっかけで接触ができた学校です。いまだ仮設の校舎で設備も整わず公演を行うのが容易ではない場所ですが、地元の皆さまのご協力もいただきこれまで以上に楽しい公演ができそうです。 一方、現地ではまだまだ子ども向けのイベントのニーズが強いにもかかわらず、我々が訪問できる数は限られています。そこで、日生劇場が持つ子ども向け公演の制作・上演ノウハウを現地で子ども向けの活動をしている皆さまに伝授し、観たい側と見せたい側が現地で結びついていくお手伝いもすべく、準備を進めています。


子どもたちの心のケアが正念場を向えるこの時期に、日生劇場は引き続き子どもたちを笑顔にするお役に立ちたいと考えています。

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