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レポート
仙台フィルハーモニー管弦楽団メンバーによる気仙沼復興コンサートに参加しました。

イベントレポート
事務局ブログ

宮城県気仙沼市。


内湾一帯に昔からの漁港の雰囲気を残しており、港町ならではの風情がある、


カツオ、サメ、サンマなど日本有数の水揚げ高を誇る食彩豊かな町です。


 


2014年の11月、公益財団法人音楽の力による復興センター・東北


(以下、復興センター)の復興コンサートが行われると聞いて、


この気仙沼にある介護老人保健施設や仮設住宅にお邪魔しました。


 


震災から3年と8ヶ月が経過し、


各地で復興公営住宅への入居が本格化しているとニュースで聞くようになりましたが、


気仙沼の現状、そして、気仙沼を巡る復興コンサートの様子はどのようなものでしょうか。


当日の様子をレポートします。


  


「音楽の力による復興センター・東北」による復興コンサート

復興コンサートとは、


仙台フィルハーモニー管弦楽団員をはじめとするプロフェッショナルの音楽家が


避難所、学校、仮設住宅、福祉施設、病院などの様々な場所に出向き、


被災した方々のこころに音楽で寄り添い、


地域再生のための希望の灯をともすことを願って行われる小さな無料コンサートです。


 


復興センターが事務局としてコンサートを運営し、その回数は420回を超えました。


 


今回の気仙沼でのコンサートは、


仙台フィルハーモニー管弦楽団からヴァイオリンの松山古流さん・熊谷洋子さん、


ヴィオラの御供和江さん、チェロの石井忠彦さんによる弦楽四重奏団


「カルテット・フィデス」が登場。


 


介護老人保健施設「リンデンバウムの杜」と


気仙沼公園住宅の集会所で開催されたコンサートに参加させていただきました。


 


復興センター事務局の伊藤みやさんによると、


今年に入ってから、気仙沼での復興支援活動の受け入れをコーディネートする


個人ボランティアの村上充さんと知り合い、


そのサポートを受け、6月以降、毎月のようにコンサートを


お届けできるようになったそうです。その数は20回にものぼります。


 


今年6月に気仙沼を訪問したチームは、


2泊3日で9回もの公演を敢行することが出来たそうで、


地元コーディネーターの存在がいかに重要なのかがうかがえ ます。


 


村上さんはご自身も被災し、避難所暮らしを経た後、


半壊した自宅を修復して戻り、その後も支援活動等を個人的に続けている


ボランティアのコーディネーターです。


 


高齢者向けの整体・リハビリ・相談などの医療支援や、


演奏・イベントなどの文化支援を提供する団体を


月に40~50本ほどコーディネートし、


多い日だと、2~3団体が市内のあちこちで同時に


支援活動を行っていることもあるそうです。


 


村上さん曰く、支援活動を行いたい団体や個人は大勢いる一方で、


被災地ではコーディネーターがまだまだ不足しているとのことでした。


 


 


介護老人保健施設「リンデンバウムの杜」での『小春日和のコンサート』


さて、この日最初にコンサートが行われた


介護老人保健施設「リンデンバウムの杜」は、


入院する必要はないものの、


日常生活において介護を必要とする要介護者に、


リハビリや看護・介護等のサービスを提供し、


自立心の向上や社会復帰のお手伝いをする施設です。


 


リンデンバウムの杜事務長の熊谷望さんによると、


この施設は、高台の裏手に位置し、津波の被害は直接受けることはなかったのですが、 


気仙沼では震災によって、他の多くの介護施設が被害に遭い、


他の施設や仮設住宅に居ることが出来なくなってしまった


要介護者たちの受け入れを行っているそうです。


 


震災直後は100人の定員をオーバーする115人を受け入れたこともありましたが、


その後、気仙沼では、リンデンバウムの杜と同じ100人規模の介護施設や


高齢者向けグループホーム型福祉仮設住宅が完成するなど、


落ち着きを取り戻しつつあります。


 


コンサートが始まる時間になると、


施設で過ごすお年寄りが集まり


会場は観客でいっぱいになりました。


 


聞き覚えのあるクラシックの名曲から


懐かしい日本の唱歌や歌謡曲まで、


一時間ほどの多彩なコンサートが行われました。


 


クラシック音楽だけでなく、


童謡の「ちいさい秋みつけた」、「里の秋」、


千昌夫の「北国の春」など、


地元のお年寄りに合わせた曲も届けられました。


 


馴染みのある曲は入居者のみなさんも


一緒になって口ずさんでいて


嬉しそうにしていました。


 


この施設では、重い認知症の方や体力のない入居者も多いそうですが、


今回のコンサートでは、普段歌を歌わない入居者も


一緒になって歌うことが出来たりと


「人間の潜在的な部分にも直接届いているプロの演奏は凄い」と


事務長の熊谷さんも驚いていました。


 


気仙沼公園住宅での『仙台フィルメンバーによる名曲コンサート』


午後からは、会場を気仙沼公園住宅に移しコンサートが開かれました。


 


気仙沼公園住宅は、気仙沼市で最初に建てられた仮設住宅です。


抽選で妊婦や体が不自由だった方を優先的に受け入れた経緯があり、


現在は未就学児童が多い団地になったそうです。


 


気仙沼市には、合わせて91団地、3,485戸


(内グループホーム型仮設住宅 2団地36戸)の仮設住宅があり、


気仙沼公園住宅は建設戸数106棟という中規模にあたる団地です。


なんと、この仮設住宅の中には、阪神淡路大震災、


新潟中越地震でも使用されてきたプレハブもあるそうです。


 


居住している方に話を伺うと、


仮設住宅には移動手段のないお年寄りも多く、


週2回、仮設住宅の住民を近くのスーパーマーケットへ


無料送迎してくれるバスが生活に欠かせないとのこと。


 


気仙沼はリアス式海岸の街なので平地が少なく高低差が激しいのです。


 


出かけずに済み、訪問してくれる演奏会というのは


気軽に参加できて嬉しいと語ってくれました。


 


気仙沼特有の地理的条件のため、


多くの仮設住宅は坂の上や山あいなどの不便な場所にあり、


団地の外へ出かけること自体、


一苦労になるお年寄りは多いのかもしれません。


支援活動というのは、一番の弱者の視点にまで立って


考えなければいけないものだと、改めて感じさせられます。


 


住民の皆さんとお話をしているうちに


コンサートの開始時間がやって来ました。


 


会場は気仙沼公園住宅の集会所。


平日の14時ともあって、集まった参加者は


お年寄りや小さなお子さんを抱えたお母さんなどを中心に20人ほど。



歩く速度がゆっくりで、集会所までたどり着くのに


時間のかかるお年寄りも多く、コンサートは5分ほど押して開始。


和やかな雰囲気の中、臨機応変に運営できるのも


少人数のコンサートの良さです。


 


さて、この復興コンサートは、


参加する 皆さんの聞きたい音楽を多く届けたいという想いから


事前にリクエストを貰うようにしているそうです。


 


カルテット・フィデスは


民謡や歌謡曲など復興コンサートで好まれる、


様々なレパートリーを持っているのですが、


今回のリクエストは「正統派クラシック」となりました。 


 



後に自治会長さんが明かしてくれたのですが、


多くの支援団体が訪れては「上を向いて歩こう」や「故郷」などを


“一緒に歌いましょう!”と提案するそうです。


住民の皆さんにとっても、それは嬉しいことではあるようですが、


歌っているうちに、いろんな想いが溢れ出し、涙ぐんでしまい、


結局最後まで一緒に歌えなくなってしまうことが多いとのことです。


それよりはむしろ、その演奏家が得意とする「これぞ」という音楽を


私たちに聞かせてほしいとの思いから、


今回は敢えて正統派クラシックをリクエストしたとのことです。


 


コンサートが始まり、クラシックの曲が数曲続いたところで、


ヴァイオリンの松山さんと熊谷さんが自分たちの使う楽器を紹介 します。


 


ヴァイオリンは羊の腸や馬の毛など


様々な動物の素材を使用して作られていることや、


自分の使っているヴァイオリンが


徳川吉宗の時代に作られたものであることなどを解説しました。



間近で見るヴァイオリンに参加者は興味津々。


 


会場の空気が緩んだのを見て、ヴァイオリンの熊谷さんが


「せっかくだから気仙沼にちなんだ歌を歌いましょう」と


美幌健の「おいらの船は300トン」の演奏を提案し、


歌詞カードが配られ、みんなで一緒に歌うことになりました。


 


「おいらの船は300トン」は気仙沼の人には馴染み深く、


自然と勇気が湧いてくる曲です。


 


さすが気仙沼の皆さん。全員が歌うことができます。


会場の全員が思わず笑顔になっていました。


 


この日一番の見せ場は、ヴァイオリンの松山さんが


“余興”として用意した「1/10サイズ」と呼ばれる


子供用のヴァイオリンの演奏。



小さなヴァイオリンで「チャルダッシュ」の激しい演奏を


披露する松山さんに会場中が釘付けに。


 


最後に、映画「オズの魔法使い」より「Over the Rainbow」、


そして「八十日間世界一周」より「Around the World」が演奏されます。


 


優雅な音色に魅了されて、1時間ほどのコンサートは終了。


 


アンコールでは、このコンサートのコーディネートを協力した


村上さんの好きな曲「G線上のアリア」を演奏するというサプライズが。


穏やかで荘厳な美しさに溢れているメロディーは


気仙沼の11月の午後の風景にピッタリでした。


 


終演後は観客の皆さんとスタッフも一緒になって会場の片付けを行いました。


地域の方と一緒に作るこのコンサートは、


会場や人数こそ小規模かもしれませんが、


だからこそ近い距離で、確実に目の前にいる人に音楽の力を届けています。


 


お互いにしっかりと向き合える安らぎと希望の時間が


そこにはあったように思えます。

イベント概要
イベント名 仙台フィルハーモニー管弦楽団メンバーによる気仙沼復興コンサート
開催期間 2014年11月18日(火)
エリア 東北エリア(宮城県)
開催地 宮城県
会場 介護老人保健施設「リンデンバウムの杜」 / 気仙沼公園住宅 集会所
料金 無料
主催 音楽の力による復興センター・東北
協力 ムラカミサポート

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